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東京地方裁判所 昭和29年(行)43号 判決

原告 古沢太一郎 外五名

被告 東京都知事

主文

原告らの請求中、各確認及び取消を求める部分を棄却する。

本件訴のうち原告らのその余の請求に関する部分を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は「一、被告が原告らに対し別紙第一目録記載の各土地につき指定した換地予定地は、それぞれ別紙第二目録記載の土地であることを確認する。二、被告が原告らに対し昭和二十九年七月三十一日附でなした別紙第三目録記載の各換地予定地指定変更処分を取り消す。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、第一、二項の請求については予備的に「被告は原告らに対し別紙第四目録記載の金員及びこれに対する昭和三十一年六月十三日以降完済に至るまで年五分の割合による各金員の支払をせよ。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

被告は特別都市計画法第五条に基き東京都内において土地区画整理事業を施行するものであり、原告らは東京都第三復興区画整理事務所管内の第九地区内にそれぞれ別紙第一目録記載の土地を所有もしくは賃借し、該地上に家屋を所有していたものであるが、被告は原告らに対し別紙第二目録記載の日時に同目録記載のとおりの換地予定地指定通知をなし、次いで昭和二十七年四月四日附で原告らに対し移転立退命令を発したが、更に昭和二十九年七月三十一日附で右の換地予定地指定を別紙第三目録記載のとおりに各変更する旨の通知をなした。

しかし土地区画整理のため換地予定地の指定がなされ、続いて地上工作物の移転命令が出された場合には、少なくともこの時に換地予定地の指定は確定し、その後は区画整理事業施行者の都合により右の指定を取り消し又は変更することは許されないと解すべきである。けだし一度なした換地予定地の指定を変更することを認めた法規が存在せず、又区画整理委員会の意見を聞いて指定された換地予定地につき既に創設された土地関係者の公私両法上の権利義務は、成法上の根拠がなければこれを剥奪もしくは変更することを得ないと言うべきであるのみならず、特別都市計画法施行令第一三条によれば、過小宅地の基準を甲乙丙の三地区ごとに区別し、最も小さい宅地の認められる丙地区でもその基準は百平方メートル以上とし、公益上やむを得ない場合に限り建設大臣の認可を受けて更に細分することができるものとされているところ、被告は本件土地については特に二〇坪(約六六平方メートル)の基準を設けたにも拘らず、これについて所管大臣の認可を得ていない。

のみならず、被告は右の基準さえも無視して本件換地予定地指定変更処分をしたのであるから、かゝる変更処分は施行令第一三条に違反した無効なものと言うべきである。よつて原告らが権利義務を有する換地予定地は別紙第二目録記載の第一次指定によるものであることの確認を求めると共に、本件換地予定地指定変更処分の取消を求める。

被告は本件変更処分に基く工作物の移転工事を既に一応完了し、原告らは前記第一次指定の換地予定地を獲得する権利を失うに至つた。しかしながら、若し被告が最初から本件変更処分のとおりの換地予定地を指定したならば、原告らはそれぞれの家業と権衡のとれた換地として二十坪の土地を必要とする関係上、これを確保するために近隣の土地の買入又は借入等適当な対策を講じていたであろう。そして第一次指定のなされた昭和二十四年七、八月当時ならば、右不足分の土地を獲得することは不可能ではなく、地価も坪当り十万円が相場であつた。しかるに現在においては地価は著るしく上り、少なくとも坪当り六十万円でなければ取得し得ない。

従つて現在原告らが右不足分の土地を入手するためには、第一次指定の時と比較して少なくとも坪当り五十万円だけ多額の金員を必要とするから、原告らは二十坪から各原告所有地に対する第三目録記載の変更後の換地予定地の坪数を差し引いた坪数につき坪当り五十万円の損害、即ち別紙第四目録記載の金額の損害を受けた。この損害は被告の故意又は過失による違法な本件変更処分によつて生じたものであるから、仮に前記各請求が認容されないときは、国家賠償法第一条第三条に基き各原告に対し別紙第四目録記載の損害金及びこれに対する本件訴訟において右の予備的請求趣旨を陳述した昭和三十一年六月十三日以降完済に至るまで年五分の法定利率による遅延損害金の各支払を求める。

右の損害賠償の請求は行政事件訴訟特例法第六条第一項に謂う関連請求であり、従つて行政事件である。そして同法第三条によれば、行政事件は処分をした行政庁を被告としなければならないから、本件損害賠償の請求の被告も行政庁たる東京都知事でなければならない。法律上も、都市計画法に基く土地収用に対する補償額不服の訴は、同法第五条及び土地収用法第一三三条の規定により、起業者たる行政庁を被告とする行政訴訟であるとされている。そして金銭的請求訴訟である点においては、行政庁の違法処分に基く損害賠償請求訴訟と右補償額不服の訴との間に差異がないので、損害賠償請求訴訟においても行政庁を被告となし得ることは当然と言わなければならない。元来行政庁と謂い国と称するのも同一人格の訴訟上の表現の差異に過ぎず、権利義務の帰属する実体は両者同一である。特例法第三条が独立の権利主体でない行政庁に被告適格を与えたのは全く訴訟上の便宜に由来するのであるから、同法第六条の関連請求についても、同条の規定が行政庁に被告適格を与えたものと解すべきである。さもないと、先ず行政庁を被告として特例法第二条の訴を提起した者が、該訴訟の継続中に予備的に同法第六条に基く損害賠償の請求をしようとすれば、被告を行政庁から国に変更しなければならず、他方第二条の訴訟を追行するためには行政庁を被告として維持しなければならないことになり、かくては違法な行政処分による損害賠償を予備的に請求する途は全く絶たれたに等しく、特例法第一一条第一項により第二条の訴の請求を棄却する場合でも損害賠償の請求を妨げないとする同法第一一条第三項の規定は死文化する。更にまた、国家賠償法第二条第三条によれば、営造物の設置管理等のかしによる損害については管理者又は費用負担者の何れに対しても賠償請求をなし得るから、いわゆる官営公費の場合に管理者たる行政庁に対して損害賠償の請求をする場合には、常に本件と同様な問題に当面する訳であるが、同法の解釈としては権利義務の主体でない行政庁に対しても損害賠償の請求をなし得ると解されている。従つて本件損害賠償請求訴訟もまた東京都知事を被告として提起し得ると解すべきである。

原告らが被告の主張するとおり本件各土地につきいずれも昭和二十二年六月二十八日以降権利を取得した者であることは認める。

被告指定代理人は全請求につき「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、なお原告らの予備的請求に対しては本案前の答弁として「本件訴を却下する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、原告らの主張に対し次のとおり答えた。

原告ら主張事実中本件土地の地価及び原告らが二〇坪に不足する分を買い増す必要のあることは争うが、その余の事実はすべて認める。

別紙第二目録記載の第一次換地予定地の指定は、いずれも将来特別都市計画法第七条による増換地を行うことを考慮して、それぞれ従前の土地の地積よりも広い約二〇坪の土地を指定したものである。元来特別都市計画事業における区画整理に伴う増換地は、過小宅地を整理して宅地地積の規模を適正ならしめるための措置であるから、この趣旨を貫くためには、増換地又は金銭清算により整理する現行の方法のほかに、更に将来(区画整理施行中を含む)過小宅地が発生することを防止するための法的規整が必要であるが、現行法上かゝる規整の方法がない。ところで換地設計の性質上、個々の土地の換地予定地を決定するまでには相当の日時を必要とするので、換地設計の進行中に従前の土地が分筆分譲されて数個の過小宅地となる場合を生じ、これらの過小宅地の所有者に増換地の指定をすれば、それだけ他の土地に対する減歩率が高くなり、一部の土地の地積を増すために他の土地の所有者等が犠牲を強いられることは不公平だからである。従つて被告は過小宅地の整理を強行することには疑問を持つていたのであるが、将来における過小宅地の発生を抑制する立法措置等について若干の動きがあつたので、この立法措置等の実現を期待し、すべての過小宅地を一掃する方針で本件地区内各地域の換地設計を行つた。しかし右の立法措置等は遂に実現せず、そのため被告の理想は実現し難いものとなつた。のみならず、過小宅地の届出があれば従前の換地設計をやり直して迄もその過小宅地を整理しようとした被告の方針に便乗し、故意に過小宅地を造成して増換地による利益を受けようとする者が本件地域内においても顕れ、被告の従前の方針を固執することは、本件地域のような土一升金一升の盛り場においては却つて極めて不公平な結果を招くこととなつた。現に本件地域において増換地を受ける土地は原告らの土地を含めて一六件に上り、中でも原告らの分は、被告が過小宅地の整理について金銭清算をすべきものと増換地をすべきものとを区別する基準等を決定した日である昭和二十二年六月二十八日以降に造成されたものである。従つて被告の行つた第一次の換地予定地指定は、換地設計をするための基礎となる土地の権利関係を、一定の期日のそれとすることなく無際限にその時期を繰り延ばした点において、重大な不当性を帯びたかしある行政処分であつたことを認めざるを得なかつた。そして右の一定の期日を前記昭和二十二年六月二十八日とするのが最も妥当であるので、被告は同日以前に存在した過小宅地に対してのみ増換地を行うこととして換地設計を再検討した結果、本件各土地についての換地予定地を別紙第三目録記載のとおり変更して指定したのである。

原告らは、第一次の換地予定地指定は既に確定しているからその取消、変更は許されないと主張するが、換地予定地の指定は、その後事実上地上建物等が移転し、しかも附近一帯の建物の移転が完了して市街地が事実上不動のものに造成される迄は、何時でもこれを修正、変更し得るものと解すべきである。本件土地については第一次換地予定地の指定後約五年を経過し、その間地上建物の移転命令も発せられたとは謂え、本件地区において事実上建物を移転したことは全くないから、かしある第一次換地設計、従つてかしある第一次換地予定地指定を取り消し変更することは何等支障がないと言うべきである。

次に原告らの主張によれば、換地予定地の指定は土地について私法上の権義の関係を創設するものであるから、換地予定地の指定の取消、変更を許すときは、一度合法的に成立した私法上の権義に影響しその安定を害する、というのであるが、換地予定地の指定が私法上の権義の関係を創設することは全くないから、その主張の理由のないことは明らかである。

また原告は被告が本件換地予定地指定変更処分により過小宅地の基準である二〇坪を下廻る換地予定地を指定したことは法律上無効であると主張するが、既述したとおり過小宅地の整理という点で首尾一貫しない現行法の体系の下においては、二〇坪を下廻る換地予定地の指定も他の土地に対する換地予定地の指定との振合上やむを得ない措置であつて、その処分が法律上無効となることはない。

更に原告らは二〇坪に満たない地積の換地予定地の指定を受けたことに因り二〇坪に足りない坪数に対し坪当り五〇万円の損害を受けたと主張する。しかし右の主張は原告らが二〇坪に不足する分を、今日絶対に買増ししなければならないと言う事を前提とした立論であるが、原告らがかゝる買増しを必要とする理由はない。もともと原告らは二〇坪以下の過小宅地上においてそれぞれの家業を営んでいたものであるから、法律により二〇坪以下の敷地の使用が禁ぜられたと言うような事実のない限り、従前の地積の敷地で家業を営むのに何等の支障もない筈である。又都市計画上過小宅地の整理方針として最低二〇坪を確保する必要がある訳でもない。従つて原告らの損害についての主張は、その立論の前提を欠く理由のないものである。

なお被告は行政庁であつて、権利義務の主体ではないから、右の予備的な損害賠償請求訴訟においては被告としての当事者能力がない。従つて右の訴は不適法として却下されるべきである。

(立証省略)

理由

被告が東京都内における特別都市計画法第五条に基く土地区画整理事業の施行者であること、原告らは東京都第三復興区画整理事務所管内の第九地区内にそれぞれ別紙第一目録記載の土地を所有もしくは賃借し、該地上に家屋を所有していたこと、被告は別紙第二目録記載の日時に原告らに対し同目録記載のとおりの換地予定地指定通知をなしたが、昭和二十九年七月三十一日附で右の換地予定地指定をそれぞれ別紙第三目録記載のとおりに変更する旨の通知をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで原告らの第一次請求について判断する。原告らは先ず前記第一次換地予定地指定処分が既に確定していることを理由として、本件変更処分が無効もしくは取り消されるべきものである旨主張するのであるが、一般に行政庁が自己のなした行政処分にかしのある事を発見したときは、これを取り消し若しくは変更することにより公益もしくは私人の既得権を害するおそれのない限り、原則として法律の規定をまつ迄もなく取り消しもしくは変更することを得るものと解すべきである。特別都市計画法上の換地予定地指定処分についても、該処分は換地指定のなされる迄の暫定的措置とみるべきものであつて、同法第一四条は、換地予定地の指定を受けた者は、別に使用開始の日を指定されない限りその翌日から従前の土地の使用収益をなし得ず、換地予定地について従前の土地に対すると同じ内容の使用収益をなし得ることを規定しているが、右の規定は原告らの主張するように土地関係者に対し私法上の権利義務の関係を新たに創設する趣旨のものではなく、従前の土地に関する使用収益の関係がそのまゝ換地予定地に移行することを定めたに過ぎないものであるから、換地予定地上に生ずる使用収益の関係もまた換地指定処分に至る迄の仮の関係に過ぎないと解する妨げとはならない。従つて一たん換地予定地指定処分のなされた後においても、区画整理事業の施行上重大な支障を生じ、又は施行地区内の土地の権利者相互間に著るしい不公平を生ずるに至つた場合には、その取消変更をなすことは許されるべきである。のみならず、特別都市計画法上の建前から言えば、如上の事由の存在が認められる場合には、最終段階としての換地指定によつて従前の換地予定地指定処分の内容を変更することも可能であり違法とはならないと解すべきである。従つて換地予定地指定処分は他の一般の行政処分が終局的確定的な性質を有するのに比較するとその性質を異にするものであり、この意味においてもその取消変更を禁ずべき理由はない。もちろん換地予定地の指定に当つては土地区画整理委員会の決議を経るのであり、右決議を尊重することは法の精神に忠実なゆえんであるが、該委員会はあくまでも土地区画整理事業施行者の諮問機関たるに止まるものであるから、施行者はその決議に拘束されて爾後換地予定地指定処分の取消変更をなし得なくなると解することはできない。

これを本件についてみると、前記第一次指定後本件変更処分に至るまで換地処分がなされなかつたことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いのない事実であり、又第一次指定後本件変更処分に至るまで移転立退命令が執行されなかつたことも原告の明らかに争わない事実であるから、かゝる状況の下においてはもはや換地予定地指定処分の変更をなし得ないとする原告の主張は理由がない。

また、原告は本件変更処分につき特別都市計画法施行令第一三条所定の建設大臣の認可を得ていないことを理由として、その無効確認もしくは取消を求め、前記第一次指定及び本件変更処分につき、被告が建設大臣の認可を得ることなく施行令第一三条所定の基準を下廻る地積の換地予定地を指定したことは、当事者間に争いがないのであるが特別都市計画法第七条及び第八条は、行政庁が特別都市計画事業として施行する土地区画整理について必要があるときは、過小宅地又は過小借地の借地権に対し地積を増して換地を交付し、又は権利の目的たる土地若しくはその部分を指定することができる旨を規定するに止まり、これを承けた同法施行令第一三条は、整理施行地区を更に甲、乙、丙の三地区に分ち、各地区ごとに過小宅地及び過小借地を定める基準となる宅地地積の規模の最小限を定め、右各地区は都道府県知事が建設大臣の認可を受けた上でこれを指定するものとしているが、同条第一項但書の規定によれば、都道府県知事が公益上やむを得ないと認めた宅地又は借地については、右の基準によらないことができるものとされており、しかもこの場合には建設大臣の認可を受けることは要件とされていないのである。これを本件について見れば、被告は右の規定に謂う整理施行者たる地位と都道府県知事たる地位とを兼ねているのであるから、被告が本件各土地の換地予定地を定めるにつき右の規定による基準に従い得ないと認定したことにつき違法性がない限り、本件変更処分が施行令第一三条に違反したものと言うことはできないと解すべきである。ところで証人佐多直承及び同大野耐二の各証言を総合すると、被告は本件土地の区域について換地設計をなすに当り、昭和二十一年九月十日を基準日とし、同日現在の土地上の権利関係に基いて過小宅地又は過小借地に対する増換地の設計をしたが、その後他の換地の変更をするごとに、当該変更の時迄に新たに造成された過小宅地等についても増換地の設計をした結果、過小宅地等は次第に増加し、特に前記基準日には六件に過ぎなかつたのが、過小宅地等につき増換地をするか金銭清算をするかの整理基準を発表した昭和二十二年六月二十八日以後は、小さな土地は増やして貰えるという風評が立ち、遂に十六件に増加したので、これらの土地全部に増換地をした結果は他の土地の減歩率が高率になつて著るしく公平を欠くに至つたため、被告は増換地の設計を再検討し、その結果右昭和二十二年六月二十八日以後に造成された過小宅地等に対しては増換地処分を行わないこととした事情を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右の事実に本件土地が新宿三越裏の繁華街にある事実(この事実は当事者間に争いがない)を考え合せるときは、被告が本件変更をしたことは公益上やむを得ない措置であるということができ、しかも本件変更指定に基く換地予定地はいずれも原告らの従前の所有地若しくは借地に比して殆んど増減がないから、本件変更処分は原告らの期待に背いたとは言え、事実上不利益を与えたものと認めることもできない。従つて本件変更処分が施行令第一三条に違反した無効若しくは取り消されるべき違法な処分であるという原告らの主張もまた理由がない。

以上のとおり原告らの第一次請求はいずれも認容し得ないから、進んで予備的請求たる損害賠償の請求について判断する。

原告らは東京都知事を被告として損害賠償を請求し、右の請求は行政事件訴訟特例法第六条第一項の関連請求であるから、従つて行政事件であるという解釈を出発点として、右の請求が適法であるとするゆえんを種々力説する。しかし同法第六条第一項は、いわゆる抗告訴訟には原則として他の通常訴訟事件を併合することを許さないが、同項に謂う関連請求に限り、別人を被告とするものであつてもこれを併合し得ることを規定するものであつて、関連請求を行政事件として取り扱うことを規定したものではない。従つて原告らの損害賠償の請求も右の関連請求ではあるが、行政事件ではなく、一般の通常事件であるから、当事者能力も民事訴訟法上の原則に従つて決すべきである。本件において東京都知事は区画整理事業を施行する行政庁であり、私法上の権利義務の主体ではないから、同知事を被告とする本件損害賠償の訴はこの点において不適法である。なお原告は国家賠償法上官営公費の場合に管理者たる行政庁に対しても損害賠償を訴求し得る旨主張するが、同法中の賠償責任を負う者は常に国又は公共団体であつて、行政庁がかゝる責任を負うものでないことは、同法第一条ないし第五条の規定上明白である。

従つて原告らの本件第一次請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、予備的請求の訴は不適法であるからこれを却下し、訴訟費用は民事訴訟法第八九条により敗訴当事者である原告らに負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 入山実 大和勇美)

(別紙省略)

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